学校のテストの点数がよいだけでは意味がない

中学1年

勉強が習慣化し、学業成績を意識し始めると、あまりにもそのことに集中してしまうため、点数以外の価値観が損なわれてしまうことがある。一冊の本を通して、学校のテストの点数よりも大切なことを教えました。

点数より大切なもの

自宅勉強を始めて数ヵ月が経過した中学1年の1学期の終わりころ、長男に少しずつ勉学への意識が生まれはじめました。そして、他人と自分とをよく比較するようになりました。

長男は僕と二人でいるときに、次のような話をするようになりました。

クラスの〇〇はあたまがいい。塾にも通っていないのにテストの点数がよい。もともと頭がいいのだろう。僕は頭が悪いからな。知能が高く生まれていればよかった。そうすれば勉強で苦労せずによい点数がとれるのに。
長男
長男

クラスの□△はいつも上から目線でいろいろ命令してきてむかつくんだよね。命令する相手は決まって自分より点数の低い人達なんだ。そうした行動がクラスの中で孤立を生んでいることに気づいていない。先生や成績のよい人たちには愛想笑いを作っている。
長男
長男

中学生ともなると、いろいろと個性が出てくるのでしょう。長男の私見が入っていることを割り引いたとしても、各家庭の教えで点数至上主義になったり、内申点を狙ったりといった様々な戦略が生まれ始めているのかもしれません。長男は大人の世界への入り口に立っているのだなと感じました。

さて、これは早めに教えなければならないなと思いました。

そして1冊の本を買って長男に渡しました。そして、この本を読み終わるまで、学校の勉強は一切しなくてよいと言いました。

アルジャーノンに花束を

『アルジャーノンに花束を』(新版)ダニエル・キイス、小尾芙佐 訳、早川書房(2015)

世界中で読まれている不朽の名作です。

1週間も経たないで読み終わったとのことで、どういった感想をもったのか聞いてみました。長男は、チャーリーが激昂して叫んだ次のシーンが印象に残ったそうです。

「だまれ!この子をほうっておけ!この子にはわかりゃしない。こんなふうなのはこの子のせいじゃないんだ……たのむから、この子の人格を尊重してやってくれ!彼はにんげんなんだ!」

食堂で新米の皿洗いが皿を割ってしまう。騒ぎ立てる客。からかっておもしろがる人々。笑っている理由はその子が知的障碍児だからだ。彼には分からない冗談に幼児のように見開かれた澄んだ目で、曖昧に笑っているシーン。

図 私の思い描いたイメージ

僕も同じ箇所で憤りを感じました。このシーンは人間の持つ強い悪を描写している。悪の中でも許すことのできない、優先的に排除すべきタイプの悪だと感じました。長男も僕と同じように、不快で、とても良くない行動だと思ったそうです。

良かった!僕が本で伝えたかったことをきちんとくみ取ってくれた。

僕は長男と本の内容を振り返り、本の主題をきちんと読解したことを褒めるとともに、そうした感受性が身に着いた人間に育ったことを、心から誇りに思うと伝えました。

僕が本をとおして特に伝えたかったことは、作品の冒頭に書かれていた読者からの手紙の一節です。

「知能というものは、テストの点数だけではありません。
他人に対して思いやりをもつ能力がなければ、そんな知能など空しいものです。人間のこの特性を欠いているひとびとは、残忍な嘲笑と空威張りの仮面のかげに隠れるものです。」

そして、チャーリーのセリフ。

「知能は人間に与えられた最高の資質のひとつですよ。しかし知識を求める心が、愛情を求める心を排除してしまうことがあまりにも多いんです……」

私はこれらの箇所を引き合いに出し、いくら学校のテストで点数がよく優秀な学校を卒業したとしても、実社会ではこうした思いやりの心がないとその学歴は意味がなく、周囲からの協力も得られないのでよい仕事はできないよと教えました。

人が学ぶことは高校受験、大学受験で終わるものではありません。新しい資格取得にチャレンジしたり、業務を覚えたりと、生きるために人間は一生知識を獲得しつづけます。ただし、人間は一人では生きていくことはできません。常に他の人と助け合って、協働していく必要があります。将来仕事についたとき、プロジェクトの一員となり多くの利害関係者と協力しゴールを目指すシーンは必ずあると思います。そうしたときに、この視点を忘れないで持っていてほしいと思います。

マルス
マルス
学生時代の成績は、人生のほんの一瞬を切り取るプリクラのようなものでしかない。クラスの友達の行動に怒りを覚えたのであれば、同じことを自分は友達にしないようにしようね。

うん、なんかとても大切なことだと分かります。
長男
長男

子どもへ教えると同時に、僕は自分へも言い聞かせました。仕事が忙しくなるとどうしても利己的にさばいてしまいがちです。企画の提案者の気持ちのくみ取りや、後工程の人の負担など、ついおざなりにしてしまうことがあります。常に利害関係者への配慮を欠かさない心の余裕を持っていたいなと感じました。子供に教えながら、自分も勉強になりました。

後日談

ちなみに、クラスで孤立を深めている友人の行動を見ているだけでストレスを感じるというので、次の本を渡して読んでみるよう促しました。

『他人を攻撃せずにはいられない人』片田珠美、PHP新書(2013)

これはどこにでもいる攻撃的な人の特性を心理学的に解説している面白い本です。

マルス
マルス

攻撃欲の強い人は「支配」が究極の目的。そしてそのエネルギーの源泉は「自分自身が他者を恐れている」こと。そうした人から害を被る場合は、とにかく論破したり、やり込めたりするのではなく、まず観察して距離をとってみよう。意外にかわいそうな人なんだなとわかるよ。

これは面白い本だね。その友達だけではなく、理不尽な先生にも当てはまる。攻撃性が垣間見えたとき、「あの本に書いてあったことと同じだ」と思えるようになりました。本を紹介してくれてありがとう。
長男
長男

マルス
マルス
本は作者が長い時間をかけて、その人の人生で価値が高いと感じ、読者に伝えたいと思ったことが凝縮されているもの。つまり、作者の人生の一部なんだ。それを数百円で手に入れることができるんだから安いものだよね。

たしかにそうだね。本にまとめるまでいろいろな言葉を取捨選択し、大切な内容だけが書かれているんだもんね。また面白い本があったら教えてください。
長男
長男

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